オリンピック後に「地下鉄新線」作るって、そもそも何でそんな話になったんだっけ?(前編)

壮大すぎる延伸検討ルート「都心部と臨海部を結ぶ地下鉄新線の整備に向けた検討調査」より
鉄道

4月3日付読売新聞夕刊が報じた「東京都がオリンピック後に地下鉄新線建設」という「スクープ」について、45日の知事会見で記者から質問が出て、小池都知事が見解を示しています。

【記者】NHKの成澤です。新しい地下鉄の整備について伺いたいと思います。一部メディアで東京都が銀座から臨海部へ地下鉄を整備して、羽田空港への直結を目指すと報じられているんですが、現時点での調整状況ですね、具体的に実現が見通せている案なのかということと、今後の東京都としての対応をお聞かせください。

【知事】一部報道が出ていたかと思いますが、都心部、臨海地域の地下鉄の構想ですが、この路線は、文字どおり都心部と臨海部とのアクセス強化に資する路線でありまして、その重要性については都といたしましても認識しているところであります。ただ、現在、構想段階ですし、関係者間で十分調整を重ねていく必要がある課題は多々あるわけで、臨海地域での開発動向なども勘案しながら、臨海地域全体の交通アクセスの充実ということに努めていきたいということであります。まだ、整備するという方針は固まったというものではございません
一方で、臨海地域というのは、やはり交通網がどういうふうに充実するかと平仄を合わせて発展をするものですので、地下鉄8号線の延伸の課題もございますし、これら全体を見ながら進めていくもの、順番にそれぞれの調整を進めつつ、前へということになろうかと思います

【記者】テレビ東京の吉田です。地下鉄に絡んでもう1つですね、8号線の延伸について、3月28日の江東区の委員会で、都から、都内6路線のうち、8号線の延伸を一番力に入れて取り組んでいると発言があったと江東区側が明らかにしていますが、これについて、8号線を優先的に取り組んでいくということか確認させてください。

【知事】8号線については、当然、東西線の混雑緩和という一番大きなテーマもございます。それから、今、申し上げましたように、臨海地域の更なる発展ということにも寄与するということから、重要な路線であることには違いがありません。先日、お話ありましたように、江東区議会で、東京都から地下鉄8号線延伸の取り組み状況についてご説明をさせていただきました。そして、事業スキームですけれども、都として、東京メトロによる整備、運行が合理的だという考え方もお示しをさせていただいたところであります。地下鉄8号線延伸事業化に向けては、協議、そして調整は加速をしていきたいと考えております。はい。

【記者】江東区は、この発言で、都は優先的にこの8号線の延伸について取り組んでくれるという受けとめなのですけれども、その辺についてはいかがでしょうか。

【知事】幾つか整理をすべきことがございます。それらも含めてですね、8号線の延伸については、東京都としてもしっかり取り組んでいきたいと考えております。

小池知事「知事の部屋」/記者会見(平成3145日)より(強調は引用者による)

検討していることは認めつつ、まだ決定事項ではないとかわしてますが、この手の「スクープ」への回答としては、結構前向きなニュアンスが強いですね。そして既報の通り東京都は、8号北上線延伸事業は東京メトロが主体となって進めるべきだという姿勢を示してます。

はしごを外された江東区

江東区からすれば、1972年の都市交通審議会答申で追加された「8号線分岐線(豊洲~亀有)」をルーツとする8号北上線計画は、それまで都電が担っていた川向う地域の南北交通を代替する路線として50年待っていたわけです。しかも、この件は豊洲市場を巡って政治案件化していました。

江東区は築地市場の移転受け入れに当たって、土壌汚染対策、市場と一体化した観光拠点の整備、そして8号線延伸を含む「交通対策」の3つを条件とした。

だが、観光拠点整備をめぐる都の対応に区が反発。区議会の特別委員会は昨年6月、市場の10月開場延期を求める決議を検討するに至った。そこで都側が提示したのが、8号線延伸の「事業スキーム構築」だったのだ。

東洋経済ONLINE「有楽町線「豊洲-住吉」延伸が先行しそうな事情(201929日)

2018年度中に決まるはずだった「事業スキーム構築」について、東京都が「東京メトロが主体となって進める」と回答したということは、新線建設に否定的な東京メトロが整備を受け入れない限り進まないことを意味しています。

ちなみに江東区は2018年3月に「東京8号線(豊洲~住吉間)整備計画調査報告書」を発表しています。配線図や運行本数まで想定したもので、5年前にパッと出たばかりの地下鉄構想とは検討の深度が全く違います。

中央区の駆け込み地下鉄計画

2000年~2015年にかけて首都圏の路線整備は、国土交通大臣の諮問機関である「運輸政策審議会」が出した「第18号答申」という計画に基づいて進められました。都市部の鉄道は、各事業者が勝手に建設すると収拾がつかなくなり、利用者にとっても不利益なので、どのような路線・ネットワークが必要かを議論して、今後の方向性を決めておきます。必ずしも答申が絶対というわけではありませんが、リストに入れば有望、外れたら厳しいというのが実情です。15年程度の長期スパンで進む整備計画に乗り遅れたら後に響くというわけです。

現在は2016年の「交通政策審議会」答申を受けて、2030年頃を目標年次とした計画が進んでいますが、中央区としては地下鉄実現のために、どうしてもこれに飛び乗る必要があります。そこで中央区が2015年に行ったのが「都心部と臨海部を結ぶ地下鉄新線の整備に向けた検討調査」でした。

正直なところ、この調査報告書は論点整理のための「たたき台」レベルのものでした。しかし読売の記事にある「関係者が明かした地下鉄構想」は、内容を見る限りこの調査報告書をベースにしていると思われます。というか、改めて見直したら細かい数字はほぼ一致しました。

今回のエントリーは、改めて2016年の検討調査報告書を読み直し、今回の報道を再検証することが目的です。

オリンピック招致前の計画

その前に、時計を2012年まで巻き戻します。2012年6月に策定された「中央区総合交通計画」には、中央区の交通について以下のような課題が挙げられました。

【課題1】増加する交通需要に対する公共交通の充実
・臨海部の人口増による交通需要の増加
・臨海部と都心とを結ぶ中量輸送機関の確保が必要

【課題2】公共交通不便地域の解消
・鉄道駅から300m、バス停から200m以上離れた、公共交通が不便地域の解消が必要

(中略)

【課題6】まちの魅力を高める交通環境の充実
・回遊性やまちの魅力を高める交通環境の充実が必要

中央区はこれらの課題に対して、2013年5月に「基幹的交通システム導入の基本的考え方(PDF」を発表します。求められるのは「世界を代表する国際都市東京にふさわしい基幹公共交通システム」だとして、

  • 魅力的な「東京」を演出できる都市交通
  • 輸送力が大きく、定時性・速達性に優れる公共交通
  • 誰もが利用しやすい、バリアフリーの都市交通
  • 環境負荷の小さな都市交通
  • オリンピックを考慮し、世界に発信する輸送インフラ、柔軟な計画

を満たす、BRT(高速バス輸送システム)を導入するとしたのです。

  1. 晴海通り活用ルート
  2. みゆき通り・環状 2号活用ルート
  3. 海岸通り・環状2号活用ルート

3案の比較検討の結果「御幸通り・環状2号活用ルート」が有望ということで、これをベースに形になったのがオリンピック後に暫定開業予定の「東京BRTPDF」です。

さて、重要なのは2013年5月の段階では2020年東京オリンピックの招致は決定していないということです(決定は同年9月)。この時点では「招致活動」を念頭にはおいているものの、交通計画に大きな影響を与えるものとまではされていません。なぜなら、

の予定だったからです。でっかい選手村を作って、競技会場をガンガン作って、跡地を再開発して、なんてことは(思っていても)織り込めません。

オリンピック招致後の計画

大会招致時の「立候補ファイル」には、選手村跡地の活用について次のように書かれています。

選手村は、都民や国民にとっての永続的なレガシー(遺産)になるとともに、環境やエネルギーを多方面から考慮した持続可能な取組により、世界の人々にとっては、持続可能な都市居住の模範となる

選手村に大会のレガシーとオリンピックコミュ二ティのコンセプトを残していくことで、晴海地区は、大会終了後も様々な人が集い、交流し、発展、発信していく国際交流拠点となる。

(中略)

晴海地区全体の利用者が増加することを想定し、新たなアクセス手段となる交通システムを検討している。これは、輸送モールのレガシーにもなる。

(中略)

選手村のコンセプトは現在の都市計画と十分に整合している。東京都は都市計画の決定権者であり、この用地の所有者である。このため、東京都が選手村の開発に対する総合的な責任を負う。

晴海地区の開発は、東京都の長期ビジョンである「2020年の東京」の考え方に基づいて進められる。「2020年の東京」では、高度な防災都市の実現、低炭素で高効率な自立・分散型エネルギー社会の創出などが目標として掲げられている。

選手村開発計画は東京都の基本計画のひとつである豊洲・晴海開発整備計画に基づいている

出典:立候補ファイル「テーマ10 選手村」

つまり、オリンピックのために大規模開発するのではなく、東京都の長期的な都市計画の中で整備をしていきます、大会後は持続可能な都市住居として転用するから無駄はないですよ、と言っているのです。それを前提として晴海地区に整備される交通機関が「新たなアクセス手段となる交通システム」、つまりBRTのはずでした。

ところがオリンピック招致が決まると、当初「7000億円」のはずだった予算がどんどん膨らんでいきます。2014年には選手村の住宅転用に加え、高層タワーマンションを含めた大規模開発へ計画が拡大します。選手村跡地の一部は「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催を記念する都民に開かれた象徴的な公園」になるとされていましたが、現在のイメージ図ではフツーの公園ですね。

安心してください、イメージです

※もっとも「晴海地区は、国が新成長戦略として進める総合特区制度のエリアに位置づけられており、既成の枠組にとらわれない幅広い取組を特区制度が後押しする。また、周辺の地域では大規模な再開発プロジェクトが進行中であることから、晴海地区においても、民間出資が期待できる」とも書いてあるので、最初から既定路線だったのですが。

従来の都市計画の延長線上にある臨海エリアの住宅開発、そのためにBRTが必要(そしてレガシーに!)という位置づけだったはずが、オリンピック招致が決定すると中央区は「地下鉄整備」を唱え始めます。

東京都中央区の矢田美英区長は6日の記者会見で、2020年の東京五輪開催後をにらみ、地下鉄の新規路線を誘致する構想を明らかにした。築地から勝どき、晴海、豊洲、有明にかけた地域が対象で、五輪の施設建設や再開発による人口の増加を踏まえたもの。14年度にルートや需要の予測などに関する調査を実施し、鉄道事業者や国、周辺自治体に働きかける方針だ。

矢田区長は「晴海地区では五輪後、選手村が住宅に活用され人口が約1万2000人増える。地下鉄の新規路線ができれば利用者は増えるため、調査したい」と語った。

出典:日本経済新聞(201427日)(強調は引用者による)

ここにある「14年度にルートや需要の予測などに関する調査」が、前項で取り上げた「都心部と臨海部を結ぶ地下鉄新線の整備に向けた検討調査」だったというわけです。

(後半に続く)

オリンピック後に「地下鉄新線」作るって、そもそも何でそんな話になったんだっけ?(後編)