【東京都市交通博物館 第2回】大量輸送時代の礎となった100年前の山手線車両―ナデ6110形

[1903-1913]電車黎明期

もうすぐ日本で鉄道が開業してから150年を迎えようとしています。ここ10年で相次いで建設された鉄道の博物館に行くと、鉄道史を彩ってきた往年の名車たちに会うことができます。新幹線、蒸気機関車、ボンネット型特急!あー楽しかった。いや、ちょっと待ってください。今スルーした茶色い箱、一番身近な歴史ですよ!! それベンチじゃなくて展示車両なので飛び跳ねて遊ばないで!!

通勤電車も100年以上の歴史を積み重ねてきました。それどころか電車こそが都市生活者のライフスタイルを作ったといっても過言ではないのです。鉄道博物館に何度も行った方でも、もしかしたらスルーしていたかもしれない通勤電車の歴史、今度行く時はじっくりと見てみませんか?

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第2回 大量輸送時代の礎となったナデ6110形(鉄道博物館)

今回紹介するのは、約100年前に山手線を走っていた通勤電車「ナデ6110形」です。昨年、国の重要文化財に指定されました。

ナデ6110形6141号車

この車両は1913(大正2)年に鉄道院の新橋工場で製造され、中央線や山手線で使用されました。1925年に目黒蒲田電鉄(現東急目黒線・多摩川線)へ払下げられ、その後もいくつかの会社を渡り歩いて長らく現役車両として使われますが、1972年に「鉄道100周年」事業の一環として国鉄へ返還され、製造当時の姿に復元されました。そのため前回紹介したデ963形とは異なって内外装とも非常に美しい姿を保っており、鉄道博物館を代表する展示品のひとつとなっています。

ナデ6110形の車内

甲武鉄道を国有化して電車運行を始めた国有鉄道(以下国鉄)はその効果を改めて認識し、続いて山手線の電化を決定します。1909年に国鉄初の電車として製造されたのが「ホデ6100形」で、その改良版として1912年に登場したのがこの「ナデ6110形」でした。

甲武鉄道時代に造られたデ963形は車体が小さく輸送力が不足しはじめていたので、ホデ6100形は更なる輸送力向上に対応するため車体の前後に台車を装備した「ボギー車」とし、客室の長さは2倍以上、定員も3倍近くになりました。その改良型ナデ6110形では片側3扉が初めて採用され、乗降時間の短縮も図られました。大量輸送時代の幕開けにおいて歴史的一歩を記録した車両です。

2本式のトロリーポール

現在の連結器とは異なる「ねじ式連結器」

ただメカニズム的には前時代を踏襲したものとなっており、複線式架線とトロリーポール2本による集電方式や、緩衝器が独立したねじ式連結器(機関車トーマスと同じ仕組み)を備えています。

型  式 ナデ6110形
全  長 16.0m(定員92名)
車体構造 木製 ボギー車
集  電 架空複線式 直流600V(トロリーポール)
製造初年度 1913(大正2)年

大量輸送時代に備えたナデ6110形

現在も保存されている同時代の車両としては、箕面有馬電気軌道(現阪急電鉄)の1形車両や、大阪電気軌道(現近畿日本鉄道)のデモ1形車両があります。電車運転は関西私鉄で先行して花開き、車両性能や運行形態さらには沿線電車文化に至るまで非常に先進的な存在でした。ただこれらの車両では単行(1両での運転)が前提だったのに対し、デハ6110形は総括制御方式を採用し2両以上の連結運転に対応していました。

箕面有馬電気軌道1形保存車(登場当時はトロリーポールを装備) Photo by TRJN

大阪電気軌道デボ1形保存車 Photo by Rsa

山手線 ナデ6110形 箕面有馬電気軌道 1形 大阪電気軌道 デボ1形
全  長 16m 14.2m 14.8m
出  力 200馬力 200馬力 300馬力
連結運転 不可 不可
製造初年度 1913(大正2)年 1910(明治43)年 1914(大正3)年

ナデ6110形の運行形態

大正中期に入ると電車運転はかなり普及しつつあり、京浜電気鉄道に加え、玉川電気鉄道・京成電気軌道・京王電気軌道といった私鉄の電車も走り始めています。

国鉄では1909年の山手線電車化に次いで、1914年に東京駅開業と合わせて東海道線でも電車運転(京浜線)を開始し、本格的な都市交通網が成立しつつありました。混雑時間帯の不定期運転、つまり平日朝夕のラッシュ時間帯に運転本数を増やすダイヤが組まれ始めるのもこの頃のことです。

1919年頃 2018年現在
編成両数 2両 11両
定  員 約180名 約1700名
所要時間
(東京・上野間 外回り)
62分
(平均30㎞/h)
55分
(平均34㎞/h)
最小運転間隔 12分 2分

1919年に中央線が東京駅延伸開業すると、中野駅から東京駅・品川駅・新宿駅・池袋駅を経由して上野駅まで至るいわゆる「の之字運転」が始まります。中野から上野まで45㎞にも及ぶ電車運転はそれまでに例のない「長距離運行」でもありました。また利用者の増加に伴って山手線・中央線は2両編成、京浜線は3両編成化されており、大型車両による連結運転を可能にしたデハ6110形は、都市部における大量輸送時代の基礎を築いた画期的な車両であったと言えるでしょう。

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アクセス

鉄道博物館

所  在:〒330-0852 埼玉県さいたま市大宮区大成町3丁目47
開館時間:10:00~18:00(火曜定休日)
入場料金:(大人)1000円 ※2018年7月5日から1300円に改定
最  寄:ニューシャトル鉄道博物館(大成)駅