オリンピック後に「地下鉄新線」? 中央区臨海部地下鉄構想に現実味はあるか

大会後のまちづくり 選手村の整備(東京都都市整備局)
鉄道

2019年4月3日読売新聞夕刊の一面に興味深い記事が出ました。東京都が「五輪後に新地下鉄」と! 副都心線で打ち止めじゃなかったのかと思った方も多かったでしょう。一応、複数の関係者の証言を得ているということで、本当ならスクープです。

近くのコンビニに駆け込んだのですが、夕刊は無い(売り切れ? 取り扱っていない?)とのこと。仕方ないので、アップされた記事から一部引用させてもらいます。

東京都は、都心の銀座地区と臨海部とを結ぶ新しい地下鉄路線を整備する方針を固めた。大規模再開発を予定している築地市場跡地(中央区)や、高層マンション開発が進む晴海・勝どき地区を経由する。都は今年度中に具体的な整備計画を取りまとめ、10~20年以内の開通を目指す。将来的には茨城、千葉両県と都心を結ぶつくばエクスプレスなどと接続させ、羽田空港までつなげる構想だ。

出典:2019年4月3日付「読売新聞」夕刊より

今年度中に整備計画をまとめて早ければ2030年に開通を目指すというスケジュールや、(1)銀座地区、(2)築地市場跡地、(3)晴海・勝どき(4)豊洲市場周辺、(5)国際展示場の5駅を想定していること、総事業費は2500億円、輸送人員1日約5万人など、結構具体的な話が出ています。

8号北上線はふられた?

これまで、「次の新線」として有力視されていた8号北上線(豊洲~住吉)について、東京都がつい数日前に「東京メトロが整備するべき」という意向を示したと報じられました。

28日開かれた江東区議会の特別委員会で、都の担当者は延伸する路線の整備や運行は東京メトロが行うことが合理的だとしたうえで、延伸した場合の構造や設備などの調査を、東京メトロに対して新年度、依頼することを明らかにしました。

しかし、東京メトロは地下鉄の整備を新たに行わない方針を打ち出しているため、都は引き続き、東京メトロや国と協議を進めるとしています。

これについて、区議会側からは「誰が、いつ、どのように事業を行うのかも決まらず、これでは事業の枠組みを示したことにはならない」と反発の声が相次ぎました。

出典:NHK「政治マガジン」2019328

東京都と江東区が出資した第3セクターが事業主体になって(お金を出して)、東京メトロに建設・運営させるという話が半ば既定路線のように語られており、東京都は8号北上線を含む6路線の整備のための基金を昨年度新たに創立したところでしたが「本命できたから冷たくなった」と考えると辻褄が合うようにも思えます。

それはともかく、読売新聞のニュースは裏を取り切れていないのか、計画がまとまり切っていないのか、色々な話を混ぜ込んでいるので読者にも混乱が生じているようです。

そもそも「新地下鉄」ってなに?

この地下鉄計画は5年ほど前に急浮上し、2016年4月の交通政策審議会答申「東京圏における今後の都市鉄道のあり方について」で正式に取り上げられたのですが、経緯を振り返ると少々泥縄的な話です(wikipediaが報道ベースで時系列をまとめているので引用しましょう)。

都心・臨海地下鉄新線推進協議会パンフレット

中央区では、2011年度より銀座と晴海地区を結ぶLRTの調査を開始。2013年には「基幹的交通システム導入の基本的考え方」をまとめた。計画では有楽町(運転開始当初は銀座五丁目) – 晴海トリトン間でBRTを導入し、段階的にLRTに転換するというものであった。

BRTについては、東京都などを交えて検討した結果、2019年に新橋駅 – 勝どき – 豊洲駅間で運転を開始し、2020年以降虎ノ門バスターミナル – 国際展示場駅・東京テレポート駅や2020年東京オリンピックの選手村跡地(再開発後)への路線を開設する計画である。

中央区では、選手村施設の集団住宅への転用や再開発事業の進展により、都心と臨海部との間の交通需要がさらに増加するとして、2014年より地下鉄導入を検討、2015年3月に「都心部と臨海部を結ぶ地下鉄新線の整備に向けた検討調査」の報告書をまとめ、同年6月区議会に報告した。

出典:wikipedia「都心部・臨海地域地下鉄構想」

中央区が主導して臨海部開発を見越したLRT計画として浮上するも、とりあえずはBRT(高速バス輸送システム)として整備し、利用者が増えたら線路を敷いてLRTにしましょうか、という話でした。ところがオリンピック開催が決定して、選手村だなんだと言っているうちに、気が付けば地下鉄を作りたいという話になっているのです。

ちなみに当初のBRT計画は「東京BRT」として2020年度に開業が決定してます。うーん、二重投資としか言いようがありませんね。

頑張って2030年に出来たとしても銀座~国際展示場

見出しに登場する「つくば―羽田直結構想も」とありますが、ここには「つくばエクスプレス」「つくばエクスプレス延伸部」「銀座~国際展示場」「羽田アクセス線」と4つの区間が含まれます。このうち、関係者が語っているのは「銀座~国際展示場」の約5kmの区間のみです。この記事は、それ以外の区間をどれだけ巻き込んでいけるかを見るための観測気球なのでしょう。

つくばエクスプレスの現在の終着駅である秋葉原~銀座間は、つくばエクスプレスの延伸事業として行われることが前提です。元々つくばエクスプレスは東京駅を起点とする計画でしたが、建設費を削減するため秋葉原~東京間を後回しにした経緯があります。経営が順調に進んでいることから沿線から東京駅延伸要望が出てますが、原状では混雑緩和などで手一杯です。このまま債務返済が順調に進んだとしても、約2km(秋葉原~東京間)で1000億円(銀座まで延伸なら2000億円?)と見込まれる建設費を無利子で貸してくれる足長おじさんが登場しない限り、動くのは難しいでしょう。

もう一方の「羽田アクセス線」は、JR東日本がいよいよ整備に向けた手続きに着手したものの、まずはメインルートの田町~羽田空港(東山手ルート)の申請に留まっており、こちらの開業予定が早くて2029年。臨海ルートがどうなるか、まだ具体的な計画は見えていません。

羽田空港に直通? 直結?

もうひとつ、この地下鉄が羽田空港まで「直通運転」をするかのように受け取っている人が見受けられますが、記事にはそこまでは書かれていません。あくまでも国際展示場でりんかい線に接続する、りんかい線から羽田空港が繋がる(予定)という別個の話です。

新線がつながるりんかい線には、JR東日本が、羽田空港に至る「羽田空港アクセス線」の「臨海部ルート」を接続させる計画を発表している。茨城、千葉、埼玉県から秋葉原駅に至るつくばエクスプレスも東京駅まで延伸させることが検討されている。それぞれ新線と接続させることで、将来的には茨城、千葉から羽田空港までが繋がることになる。

出典:2019年4月3日付「読売新聞」夕刊より

ただ、それにしては回りくどい書き方をしているので、東京都は羽田アクセス線に乗り入れたいのかとも勘ぐってしまいます。東京~羽田空港は東山手ルートと競合してしまいますし、JRにはメリットはないわけですが、2014年に一部報道で浮上したように、JR東日本はりんかい線の買収を検討しています。

東京都は第3セクターである東京臨海高速鉄道(りんかい線)の株式の91.32%を握っているわけで、譲渡交渉(条件)と絡んでくるのか…と見るのは穿ちすぎでしょうか。

採算は?

という感じで見てきたわけですが、正直なところ2500億円もつぎ込んで銀座~国際展示場間約5kmを作っても何の意味もないでしょう。副都心線など近年の地下鉄整備の相場は300億円/km、こちらは500億/kmと相当高いです。というのも他の路線と接続しない限り車庫なども全て自前で作らないといけないからです。それなのに輸送人員5万人/日では利息さえ払うことはできません。ちなみに南北線の戦闘力は53万です(ちょっとサバを読みました。56万くらいです)。

Image by Mihimaru Vista (CC by 3.0)

条件が近い路線を探すと、神戸市長が「失敗作」と認める神戸市営地下鉄海岸線(7.9km)の総事業費が約2350億円で、1日平均の輸送人員が約5万人ですから、数字だけ比べればまさしく「第2海岸線」です。

神戸市の久元喜造市長は3日、甲南大学法科大学院の講義で、赤字が続く市営地下鉄海岸線について「ランニングコストさえ賄えておらず、政策の失敗としか言いようがない」と断言する一幕があった。昨秋の市長選では、日本維新の会が推薦した候補の応援演説で、同党幹部が大阪市営地下鉄の民営化を実績として挙げ、海岸線などについて「税金が本当に神戸の成長に使われているのか」と批判していた。

出典:神戸新聞NEXT2018/10/4

以上の通り、この路線が10~20年後に「銀座~国際展示場」だけ開通することはあり得ません。おそらく東京都は、つくばエクスプレスか、JR東日本か、どちらかを抱き込もうと考えているのでしょう。読者・世間がつくばに興味を示すか、羽田に興味を示すか、観察している人がきっとどこかにいるはずです。

それにしても「中央区湾岸エリア」が東京最後のフロンティアなのは間違いないことですが、オリンピックの後始末で終わるのか、地下鉄がふさわしい街に成長するのか…

<続報を受けて深掘り考察始めました>

【続】オリンピック後に「地下鉄新線」作るって、そもそも何でそんな話になったんだっけ?(前編)