【3日目東S15b 第2版発行記念】城東電気軌道百年史の紹介(3)

[1903-1913]

2018年8月のコミックマーケットにて「城東電気軌道百年史 第2版」を発行するにあたり、より多くの方に手に取っていただけるよう、内容の前半をまとめたサマリー版を用意した。なお、本稿は「百年史」の論旨を紹介するために書下ろしたものであり、本書では予備知識の無い方でも分かりやすいように、登場人物や時代ごとの背景についても図表をふんだんに用い、逐次注を添えて丁寧に解説してある。本稿の内容に少しでも興味を持っていただけたら、是非手に取っていただければ幸いだ。

コミックマーケット94(2018年8月12日)日曜日 東S15b「Happiness Factory」にて頒布(1500円)
※サークルカットで予告していた新刊は出せませんでした。すみません。代わりに「新橋駅幻のホーム」に関する70ページくらいの冊子を制作中です。

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3-3.延長線計画の方向転換と切り離し

ところが第2延長線計画はすぐに暗礁に乗り上げていたようだ。千葉胤義の加入から1年後の1913(大正2)年7月25日に城東電気軌道は創立するが,この間に路線構想は再び大きく変化しているのである。

1912(大正元)年8月21日に第一回創立総会を開催した城東電気軌道は,既特許区間である本所錦糸堀・上今井間の工事施行認可申請に向けて実地測量に着手するが,特許申請から2年以上が経過し付近の市街地化が進んでおり,また出願時に地元との調整が十分に行われていなかったことから,計画に多くの齟齬が生じていることが明らかになってくる。

これらを踏まえて作成した,1914(大正3)年3月の工事施行認可申請では,同区間の建設費は当初想定していた30万円から75万円にまで増加している。1913(大正2)年の実測の段階で100万円の資本金では延長線まで含めた建設は到底成し得ないことは明らかになっていたことだろう。

1913(大正2)年7月25日に,会社創立に向けた第二次追加発起人が22名加盟し,同時に20人が脱退している。脱退者のうち13人は1年前に加盟したばかりの行徳町,南行徳村,船橋町在住の第一次追加発起人であった。

これら町村を通過する予定だった松戸延長線は,そもそも京成電気軌道の営業区域を横断し大きく食い込むなど,実現性に疑問のある計画だったこともあり,早くも断念されたようである。一方で浦安町在住の発起人は5人中1人しか脱退しておらず,葛西と船堀から参加した9名の発起人も誰一人欠けていないことから,江戸川循環線計画の命脈はまだ保たれていることが示唆されている。

城東電気軌道の資本金100万円では延長線の建設は困難であった。しかしながら,電力供給量の拡大を目指す千葉ら江戸川電気側としては延長線計画を断念することはできない。そこで江戸川循環線を計画から切り離して新会社を設立することで,改めて資金を集めようという画策が始まる。

1913(大正2)年7月25日,城東電気軌道の第2次発起人加盟申請が行われた同じ日,千葉胤義は新たに江戸川電気軌道という電気軌道を出願した。発起人は千葉胤義,橋本梅太郎,山田馬次郎ら江戸川電気の主導者ら31名で,資本金は25万円,洲崎・葛西間4マイル63チェーンを結ぶ構想であった。使用する電力は言うまでもなく江戸川電気から供給を受けることになっていた。

ターミナルの洲崎(現在の東陽町)は洲崎遊郭を抱える江東地区随一の歓楽街で,間もなく市電の延伸が予定されていた。市電開通の暁には洲崎と錦糸町両方から東京都心に連絡することになり,城東電気軌道の第2本線としての位置づけにもなり得る立地である。終点は葛西村大字長嶋,妙見島の南端付近に設定されたが,これは浦安を終点とする城東電気軌道第1延長線との接続も視野に入れているようにも見受けられる。

【城東電気軌道百年史特別企画 第2回】城東電車と行徳の人力鉄道のただならぬ関係

3-4.江戸川電気と城東電気軌道の電力需給契約

城東電気軌道と江戸川電気の電力需給契約が正式に締結されたのは1913(大正2)年11月5日のことであった。供給電力は最大800キロワットで,そのうち500キロワットは城東電気軌道の電灯事業のための割り当てとされた。同社は電力需給契約締結から3日後の1913(大正2)年11月8日に電気事業経営許可願を申請している。

城東電気軌道は同時代の他の電鉄会社と異なり,電灯事業を兼業しなかったために経営が行き詰まったと言われることが多いが,創立以降の定款には一貫して「電気軌道に拠る一般の運輸並電灯電力の供給」事業と定められており,この申請にあるように実際に電灯事業への進出を図った記録が残されている。

起業目論見書によると,供給区域は東京府南葛飾郡(小松川村,松江村,船堀村,葛西村,瑞江村,鹿本村,篠崎村,小岩村,奥戸村,平井村,吾嬬村,大本村,本多村,南綾瀬村,隅田村,寺島村,亀戸町,大島町,砂村)千葉県東葛飾郡(浦安町,行徳町,南行徳村)で,供給区域全体で電灯9,500灯,動力380馬力と記されている。動力は亀戸・大島など城東の工業地帯を中心とした使用を見込んでいた。

総額21万円の事業資金は全額を借入金で賄うとされており,資本金100万円の枠外で電力消費量を拡大するという方針は江戸川電気軌道の設立と共通している。

(5日連続更新です。次回は8月2日公開)