JR北海道の経営が無理ゲーにもほどがある件について

営業

JR北海道がヤバいです。どれくらいヤバいかというと、まず全営業路線が赤字です。さらにその半分がとんでもなく赤字です。なにが問題かというレベルではなく、問題ではないことを探すのが難しいレベルです。

しかも結構ギリギリまでヤバいってことを言い出せませんでした。いや、みんな薄々気づいていたんですが、大丈夫かな? 何とかなるのかな? と眺めていたら既に致命傷でした。ということで、ヤバい路線がリストアップされてトリアージが始まりました。

JR北海道「当社単独では維持することが困難な路線について(2016年11月発表)」より

鉄道からバスへ転換すべきとした輸送密度500人規模の路線では、100円稼ぐのに必要な経費が594円にもなり、そのうち燃料費や乗務員の人件費など運行に直接必要な経費だけで161円と、全く採算が取れません。「鉄路を残せ」と言いたいところですが、こうした区間では既に1日5~6本しか列車が運行されていなかったりしますので「歴史的使命を終えた」としか言いようがない状況です。

あとは上図でオレンジ色の輸送密度500~2000人の路線を守るのか、諦めるのかです。この区間は線路の維持、管理を沿線自治体が担ってくれるなら、鉄道の運行だけなら何とか維持できる(かも)とJR北海道は言っています。これを「上下分離」といいます。道路と自動車の関係と同じですね。とはいえ苦しいのは自治体も同じで、何十億円という負担など到底できません。しかしこれを諦めると北海道の東半分から鉄道が姿を消すことになります。さあどうするんだということです。

まあ詳しくはダイヤモンドオンラインの記事とかを読んでください。今回はちょっと違った角度から比べて考えてみましょう。

みんな持ってる不採算路線、不採算路線しか持ってないJR北海道

ひとつの列車に乗客が10人もいないような路線は稀としても、採算の取れないローカル線は日本各地に存在します。というより、地方の路線のほとんどが赤字です。

基本的に鉄道会社は路線ごとの収支状況を公表していませんが、日本商工リサーチが2015年に実施した調査によると旧国鉄ローカル線から転換された第3セクター鉄道会社31社のうち、8割以上となる26社が経常赤字となっています。

また次のように、JRの売り上げを新幹線と都市部通勤路線とその他に分けててみても一目瞭然です。

※「首都圏」の営業kmは東京・八王子・横浜・大宮・高崎・千葉支社の合計、運輸収入はJR東決算資料から(いずれも2018年3月)

日本最大の鉄道会社JR東日本であっても、営業路線のうち半分以上はいわゆる地方のローカル線です。しかし、売上の3分の2を首都圏通勤路線、3分の1を新幹線で稼いでおり、その他ローカル線はわずか3.8%にすぎません。

※「近畿圏」の営業kmは近畿統括本部の管轄内の合計、運輸収入はJR西決算資料から(いずれも2018年3月)

JR西日本も全営業キロの3分の2がローカル線ですが、売上の半分を新幹線、3分の1強を近畿圏のアーバンネットワークが占め、ローカル線の寄与は12.8%でしかありません。

JR東日本とJR西日本の例をみても、高速大量輸送という比類なき競争力を有する新幹線と、鉄道を使わないと通勤できない都市部においてのみ、例外的に鉄道経営が成り立っていると言った方が正しいでしょう。言ってしまえば、新幹線と都市圏の稼ぎで地方の鉄道網を維持しているというわけです。

改めてJR北海道の経営規模「営業キロ2552kmで728億円の運輸収入」を見てみると、JR東日本のローカル線区「4198kmで692億円」、JR西日本のローカル線区「3142kmで1100億円」に近い規模・構造だということが分かります。つまりJR北海道は赤地を補填してくれる稼ぎ頭抜きで、ローカル線区単体での鉄道経営を強いられている状況だということが見えてくるのです。

JR北海道からすれば存亡の危機、JR全体からすれば小さな金額

各社の2017年度決算資料から作成

北海道は106億円の経常損失で死にそうになっています。片やJR東海は5000億円も利益が出て、お金が余って仕方ないのでリニアを作り始めました。諸々はしょった乱暴な言い方ですが、少なくとも外見上はそういうことになります。

国鉄は6つの旅客会社、1つの貨物会社に分割民営化されました。収益力を持っている本州の東日本、東海、西日本(通称本州三社)に合計14.5兆円の国鉄長期債務を返済させ、収益力が低い北海道、四国、九州(通称三島会社)には債務は引き継がせず、逆に事実上の運営補助金として「経営安定基金」を渡しました。先ほどJR北海道の106億円の経常損失と書きましたが、実際に鉄道事業で発生している営業赤字は500億円です。ここに関連事業の売上と補助金を足して、赤字を106億円に留めているのです。ここ5年で経営が悪化するまではトントンの状態でやってきたわけです。

ここらへんも詳しくはダイヤモンドオンラインの記事を読んでいただければと思いますが、ともあれ民営化から30年が経過し、鉄道は質量ともに向上しましたし、本州三社は順調に国鉄債務を返済していますし、三島会社も怪しいスキームを駆使しながらなんとか生きながらえ、九州はとりあえず自立を果たしました。なんだかんだで国鉄民営化が成功したのは間違いないでしょう。

その上で、2010年代以降の人口減少期、国力衰退期における新たな課題として取り組まなければ、第二第三のJR北海道が日本各地に現れるでしょう。いや、並行在来線問題、地方ローカル私鉄、被災路線など、様々なところにとっくに存在してたことを、みんな知ってたはずです。でっかい北海道がまるまる試される大地になったから見えやすくなっただけのことなのです。