丸ノ内線の赤い新車はなぜ「丸」い? ―デザインモチーフに込められたDNA

外観イメージ(東京メトロプレスリリースより)
[1914-1926]都市交通のめばえ

東京メトロは今年度末に丸ノ内線に新型車両2000系を投入すると発表しました。これまでも千代田線、銀座線、日比谷線で新型車両の投入を進めており、いよいよ銀座線と並ぶ2枚看板である丸ノ内線にもその波が押し寄せることになります。

丸ノ内線新型車両2000系を導入します

東京メトロ(本社:東京都台東区 社長:山村 明義)は、約30年にわたり活躍している丸ノ内線02系に代わる新型車両2000系を導入します。2019年2月から運行を開始し、2022年度までに53編成318両を導入する予定です。

銀座線と丸ノ内線は車体のサイズを除けばほとんど同じ規格で作られているため、技術面では銀座線の黄色い電車こと「1000系」をベースに開発されるようです。外観には銀座線で好評を博したフルラッピング”塗装”が採用され、20余年ぶりに丸ノ内線に「赤い電車」が帰ってくることになります。

2000系の外観の特徴は色だけではありません。専門家の監修のもと部門横断的なプロジェクトチームの検討を経て「世界有数の大都市“TOKYO”に活力を与えるインパクトのある形状」を採用したと言いますから、並々ならぬ意気込みと言えるでしょう。ではそのインパクトある形状とはどんなものか…というと、プレスリリースを読んでもよく分かりません。

デザインコンセプト

鉄道車両のデザインを数多く手掛けるインダストリアルデザイナーの福田哲夫氏・福田一郎氏の監修のもと、様々な部門から集まった社員が丸ノ内線の特徴から導き出したキーワード「地上」「活気」「先進的」に基づき、それぞれの要素を「色」「形」「機能」のデザイン3要素に織り込み車両コンセプトを策定しました。

-Color- 四季に映える鮮やかな挿し色
-Form- 活力あるTOKYOのカタチ
機能 -Function- 安心を支える先進の機能

うーん、よくわからん! これは多分プレスリリースを書いた人間もよく分かっていない気がします。外観と内装に分けてどういった要素を織り込んでいるのか詳しく見てみましょう。

赤い車体とサインウェーブの系譜

外観は「グローイング・スカーレット(Glowing Scarlet)」の車体と丸ノ内線の代名詞である「サインウェーブ」を織り込んだ車体デザインとしました。前面の黒い円形のデザインが特徴的です。

外観イメージ(東京メトロプレスリリースより)

分かりやすいモチーフから挙げていくと、鍵穴型のヘッドライトは(向きは違いますが)丸ノ内線最初の車両である300形の形状を引き継いだものですね。

300形の真っ赤な車体にステンレスの波形を配した白い帯をまとったデザインは、地味な色の車体が多かった時代において大きなインパクトを残しました。

現在使われている02系車両でも8年前からサインウェーブ模様が復活していますが、新型車両では初代の印象をより強めたデザインになります。

 

車体の帯の位置は窓の下から窓の上に変更されました。これはホームドア設置によって窓から下のデザインが見えにくくなったことによるもので、近年の鉄道車両に共通するトレンドです。

丸顔の系譜

 

実は丸ノ内線の車両には「丸顔」の伝統があります。1950年代の銀座線と丸ノ内線の車両を比べてみると基本的なパーツの配置は似ていますが、丸ノ内線の方が柔らかい形をしており、特に全面上部(おでこ)の丸みが強調されたデザインになっていることが分かります。

実はその次の世代の車両も同じなのです。昨年引退した銀座線01系と丸ノ内線の現行02系もよく似た顔をしていますが、比べてみると丸ノ内線の方が丸みを帯びているのが分かります。


(01系写真)The RW place(Wikimedia Commons)をトリミング

この違いは300形を意識したものだと公式に語られています。

300形の面影を残したデザインをアルミ無塗装車体で表現するためには、先頭形状と路線識別帯でその特徴を表現しなくてはならない。先頭部は300形の赤く丸いイメージを残すため、R8000mmの丸みを付け、上部に設けた行先表示や運行番号、車号の上と屋根の間を黒色で結んだ。

帝都高速度交通営団車両部『架け橋―営団地下鉄2500両のあゆみ』 

丸ノ内線車両のポイントは丸み、特におでこ!というわけで、新型車両2000系でもおでこを強調したデザインになっているのです。

丸窓の系譜

車内には開放的な車内空間を演出する球面形状の天井パネルを採用するなど、内装も「丸」のモチーフを多く取り入れたデザインになっています。天井や貫通扉にも円形の模様が見えますね。これは今までの車両で使われていたものではないので、おそらく丸ノ内線の「丸」から持ってきたダジャレみたいなものでしょう。

車内イメージ(東京メトロプレスリリースより)

2000系にはもう一つ印象的な「円形」が取り入れられています。車両の両端の窓に「丸窓」が採用されているのです。これは東京メトロでは初めての試みだといいます。

ん? 東京メトロ初なのに系譜って何よ? と思われたでしょうが、もう少しだけ読み進めて下さい。

丸窓を採用した鉄道車両といえば、最近デビューした叡山電鉄の新型観光列車「ひえい」や、登場から20年を経てもなお強い個性を放っている南海電鉄関空特急用車両50000形特急が有名です。どちらも車両全体に共通したモチーフとして「円」を取り入れることで、インパクトある形状としています。

 

2000系のようにさりげないアクセントとして丸窓を採用したケースは近年では多くありませんが、実は90年ほど前に鉄道車両にちょっとした「丸窓ブーム」が起きたことがあります。

いずれの車両もドア横に丸窓を配置してアクセントとしています。

高松琴平電鉄3000形(1926年製) 写真:Rsa(Wikimedia commons)

上田電鉄モハ5250形(1927年製) 写真:上田市ホームページ(別所線電車存続期成同盟会)より

美濃電気軌道セミボ510形電車(1926年製) 写真:Spaceaero2(Wikimedia commons)

いずれの車両も大正末から昭和初期にかけて、大手鉄道車両メーカーである日本車輌製造が製造した電車です。

実は丸ノ内線の新型車両2000系は、ベースとなる銀座線1000系に引続き日本車輌製造が製造を担当するのです。この丸窓にはもしかすると、日本車両製造側が仕込んだDNAかもしれませんね。

結局なんなの?

結局「世界有数の大都市“TOKYO”に活力を与えるインパクトのある形状」とは何なのかはよく分かりませんでしたが、細かく分析するとこれまでの歴史的モチーフを巧妙に組み込んだデザインだということが見えてきました。

あえてひとつ付け足すとすれば、赤い車体に青いメトロのマークって似合わないですね。