なぜタイ語が追加されるのか―鉄道多言語案内の今後

営業

ここ数年で公共交通機関の案内サインの多言語化が一気に進んでいます。これまでもサイン・パンフレット等への外国語併記は、空港連絡運輸を行う事業者などで個別の取り組みとして行われてきましたが、2006年に観光立国の実現を図るため公共交通機関における外国語案内のガイドラインが制定されてから、地方ローカル線やバス事業者にも広く浸透し始めています。

このガイドラインでは、制定当初は「情報提供の際は、日本語に加え、英語及びピクトグラムを基本とする」とし、その他の言語はパンフレットやwebなど別媒体で補足対応するとされていましたが、現在は必要に応じて英語以外の言語表記をすることが望ましいという方針に方向転換されています。

なお、施設特性や地域特性の観点から、中国語又は韓国語等の表記の必要性が高い施設については 視認性や美観等に問題がない限り 中国語又は韓国語が高い施設については、視認性や美観等に問題がない限り、中国語又は韓国語その他の必要とされる言語(例えば、タイ語、ロシア語等)を含めた表記を行うことが望ましい。

もはや日本語・英語・中国語・韓国語の4か国語表記はスタンダードであり、その他の言語について「パンフレットやwebなど別媒体で補足対応する」時代に入っています。

例えば東京メトロは今月下旬から駅の券売機・精算機などでタイ語の表記を開始しました。

ちょうど1年前となる2017年2月には券売機類でのフランス語・スペイン語の表記を開始していますが、世界言語である英語、近隣の中国語・韓国語、旧植民地など世界的に話者が多いフランス語・スペイン語に次いで、タイ語という一地方言語が追加されたことに驚かれる人もいるかと思います。しかし、近年の訪日外国人の国別一覧を見ればその疑問はすぐに解消するでしょう。

訪日外国人は2011年からの5年間で3倍にまでなりましたが、それをけん引したのは中国人旅行者の増加です。数にして500万人以上の増加、増加率では700%近い数値を示しています。香港も含めれば700万人以上となり、これは2006年の訪日外国人総数にも迫る圧倒的な数字です。

その中国に迫る600%以上の増加率を見せているのがタイです。以前から東南アジアでは最多だったとはいえ、シンガポールなど二番手グループとそれほど差がなかったのが、2012年以降のビザ緩和により増加ペースが劇的に上昇しました。既に国別ランキングで中国、韓国、台湾、香港の東アジア4地域とアメリカに次ぐ5位に位置しており、2018年には100万人の突破が確実な状況となっています。

ただし、タイ語が数字の上でも英語、中国語、韓国語に次ぐ言語としての地位を固めつつあるとはいえ、すぐに案内看板にもタイ語が並ぶ日がやってくるというわけではないでしょう。タイ語への対応は現時点ではホームページ、パンフレット、券売機・精算機といったプラスアルファの部分に留まっています。

現在の案内サインで用いられる4か国語表記は、中華人民共和国で用いられる簡体字で26%、台湾・香港で用いられる繁体字で25%、ハングルで21%、英語圏(アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド)の10%を合わせて、80%以上の旅行者の使用言語をカバーしている計算になります。では残りの20%も順次埋めていけばいいかというと、視認性等の問題を考慮すると際限なく増やせばいいというわけでもありません。タイ語の4%は決して無視できない数字になってきていますが、上位の言語と比較するとまだかなりの差があるのも事実ですから、当面は案内サイン以外の部分での対応が進むものと考えられます。

※ところでこの手の話題は「○○語はいらない」「英語だけで十分」という人がウヨウヨ湧いてくることでおなじみですが、実際の数を見ればそのような議論に全く意味はないことがお分かりいただけるかと思います。

今後注目すべき言語の一つはベトナム語です。先ほどの一覧表でみても、まだ旅行者の絶対数は多いとはいえないものの、中国・タイを上回る増加率を示しています。このままのペースで増加が続けば、そう遠くない将来に券売機やホームページに追加されることもあるかもしれません。