北総線の運賃はなぜこんなに“割高”なのか

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東京近辺で運賃が高い鉄道路線といえば、真っ先に浮かんでくるのは北総線でしょう。都心に出るのに片道1000円、6カ月の連絡定期券は総額20万円以上、再発行が容易なIC乗車券が登場するまでは「財布をなくしても定期をなくすな」と言われていたとか。そんな北総鉄道に対して沿線の印西市は運賃の大幅引き下げを求める要求書を出したそうです。

北総線の高運賃問題で、印西市は23日、北総鉄道が千葉ニュータウン鉄道に支払っている小室-印旛日本医大駅間の線路使用料に関する協定内容を見直し、運賃の大幅値下げを行うよう求める要求書を両社とグループ企業の京成電鉄に送付したと発表した。市によると、市単独で同様の要求書を出すのは初めてという。

要求書では、「10年に一度の線路使用料の改定時期が3月に迫っている」とした上で、現在の使用料が年額25億円超と膨大なため、協定の見直しにより使用料を引き下げて運賃値下げを実現するよう求めている。

出典:千葉日報(2018年2月24日)

印西市は(にわかには信じられませんが)東洋経済が毎年算出している「住みよさランキング」で2012年から6年連続1位を記録する注目の都市になったこともあり、住みにくさ要素の最たるものである「運賃問題」をどうにかしたいということなのでしょう。

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ということで、荒川放水路と江戸川に囲まれたエリアの次に北総線沿線に住んでいました私が、北総線の割高感について検証してみたいと思います。なぜ運賃が高いのかといったことや、その妥当性、あるいは値下げの可能性などには触れませんのでご了承ください。

 

東京圏乗りにくさランキング2018

東京近郊で運賃が高い鉄道会社の名前を挙げてもらうとすれば、エントリーされるのは以下の路線になるでしょうか。路線の偏りに東西格差を痛感するばかりです。

これらの路線の運賃(ICカード)を1㎞刻みで比較すると次の表のようになります。比較対象としてJR(東京電車特定区間)と低運賃政策をとっている京王を加えて、初乗り運賃が安い順に並べています。

初乗り運賃が最も高いのは埼玉高速鉄道の210円です。なお、きっぷで乗車するときは東葉高速鉄道とりんかい線も210円になります。埼玉は関東圏では珍しくIC乗車券ときっぷの運賃を分けていないので、この3社が210円で最も高いということになります。

ほとんどの日本の鉄道会社は、距離を基準にいくつかの区間に分けた運賃を設定する、対キロ区間制といわれる運賃制度を取っています(ちなみに小数点は切り上げとなり2.1㎞利用の場合は3㎞で計算します)。

この中ではゆりかもめだけが3㎞から区間が変わるので、3㎞時点では最も運賃が高い路線になります。その他の路線は4㎞から区間が変わり、ここで北総線が一気にトップに躍り出ます。10-11㎞だけ東葉高速に並ばれますが、それ以降は再び単独一位をキープします。最も運賃が安い京王と比べて同じ距離で3倍以上の高額になっていることが分かります。

 

各社各路線の性格は運賃カーブに現れる

それぞれの運賃の特徴と、他の路線と比べての割高感は、グラフにするとよく分かります。

15㎞あたりで比較すると北総・東葉が飛びぬけて高いですが、その後は運賃の伸びが緩やかになるため、30㎞あたりではつくばエクスプレスとの差が縮まっています。つくばエクスプレスの運賃は長く乗るほど割安になる「遠距離逓減制」がほぼないことが分かります。JRは10㎞までは割安ですが、その後は大きな段を付けながら運賃が上がっていきます。

このように運賃には各社各路線の性格がよく現れていますが、とても深くて壮大なテーマになってしまうのでここでは深入りはしません。それよりもここで問題にしておきたいのは、ある路線の運賃が割高か割安かという問題は、鉄道会社単位で比較するだけでは不十分だということです。

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以前この記事でも指摘したように、多くの人にとって移動は一つの鉄道会社で完結するものではないからです。

 

実際の移動経路ベースで比較してみる

北総線単体では京成高砂までしか行けません。都心に出るためには更に京成電鉄と都営地下鉄を乗り継がねばならないのです。そこで、下記のような想定で都心から35㎞超の移動をする場合の運賃を比較してみたいと思います。北総線の場合は、都営地下鉄浅草線日本橋駅から出発し、押上駅から京成線に入り、高砂駅から千葉ニュータウン中央駅まで3社をまたいで36㎞の移動を想定します。

運賃カーブをグラフ化してみましょう。途中で線が跳ね上がっている箇所は、別の路線に乗入れて新たに初乗り運賃がかかっていることを示しています。北総ルートは3社にまたがるため、二度跳ねあがっています。

単体の比較では30㎞地点で北総とつくばエクスプレスの差はかなり縮まっていましたが、実際の利用を想定した比較では30㎞地点で北総が1.5倍ほど高くなっています。東葉高速は単体では北総と運賃水準がほぼ同じでしたが、直通先の東京メトロ東西線の運賃が割安なので30㎞以遠ではそこまで高くありません。

結果的に北総以外の各路線は、都心から35㎞程度乗車すると概ね600-800円のレンジに収まっていることが分かります。北総の割高なイメージは単体の運賃だけではなく、こうした事情にも裏付けられています。

※実際はさらに定期券運賃や割引率もからんでくるのでもう少し複雑な話になるのですが。

定期券と割引率の歴史のはなし

 

時間距離が与えるイメージ

このような経験を積み重ねていくことで、利用者は都心から○○kmあるいは○分乗車すると運賃が大体いくらくらいになるかという肌感覚を持っていると思います。その感覚と実際の運賃の比較で割安・割高というイメージが生まれてきます。

下のグラフは先に示した都心から35km超区間における、朝8時台の速達列車の所要時間(分)と運賃(円)をプロットしたものです。

つくばエクスプレスもかなり割高なイメージが共有されている路線ですが、運賃カーブの比較でみたように、他社よりも高いことは確かですが「高すぎる」とことはありません。ではなぜ割高感を感じるかというと、時間距離と運賃の関係が私たちのこれまでの肌感覚とは異なるからだと考えられます。

最高速度時速130㎞で運転するつくばエクスプレスは守谷から秋葉原までの37.7㎞を37分で走り抜けますが、同じ時間に東葉勝田台を出発した列車は37分後、まだ浦安付近を走行しています。同じ時間にせんげん台を出発した列車はようやく半蔵門線に乗入れたあたりですね。

実は北総線も(つくばエクスプレスほどではないにしても)都心まで意外と速いスピードで駆け抜けていく路線で、千葉ニュータウン中央から日本橋まで44分で到達します。そうした点からも北総がより一層割高に感じられるのですね。

ちなみに44分1120円の内訳は、北総線内が20分719円、京成線内が10分185円、浅草線内が14分216円です。元沿線住民としては、もう少しどうにかならないものかなというのが、偽らざる心境です。住みやすくていいところなんですけどね(フォロー)