新宿駅の乗降客数が世界一って本当?

鉄道

新宿駅は世界最大の駅である、そんな話を聞いたことはありませんか。たとえばWikipediaで新宿駅を検索すると次のように記載されています。

1日平均乗降者数は約347万人(2016年)と世界一(ギネス世界記録認定)多い駅であり、地下道などで接続する西武新宿駅・新宿西口駅まで含めると約371万人(2016年)となり、この数字は横浜市の人口に匹敵する。

出典:Wikipedia「新宿駅」

ギネス記録ってホントかいなと思いますが、確かに2011年に認定されているのですね。どのような統計によるものか明確な定義は書かれていませんが、一日平均364万人の乗客が通過する「世界で最も忙しい駅(the world’s busiest station)」とされています。

Shinjuku Station in Tokyo, Japan, is the world’s busiest station. An average of 3.64 million passengers per day pass through the station which serves the city’s western suburbs via a range of intercity, commuter rail and metro services.

出典:ギネスワールドレコード公式サイト

「新宿」「利用者」などのキーワードで検索すると、まとめサイトから個人ブログ、動画ニュース、はたまたダイヤモンドや東洋経済といった経済誌まで様々な記事がヒットします。新宿駅が「世界最大の駅」であるということは完全に定着しているようです。

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乗降人員の数え方

「乗降者数(乗降人員)」とは文字通りその駅で「乗る人」と「降りた人」の総数です。定期券利用者は区間×発売枚数を当てはめ、きっぷや回数券で利用した人は改札の通過データから算出します。

鉄道会社の多くは一日当たりの乗降人員を公表しているので、これは始発から終電までその駅を利用した人の数を示しているわけです。なお、JRの公表データは「乗車人員」なので注意です(2倍すれば乗降者数とほぼ等しくなります)。

鉄道会社各社が公表するそれぞれの新宿駅の乗降者数(いずれも2016年度の1日平均)は次の通りです。

JR東日本 乗車人員 769,307 人(乗降人員換算で約153万人)
京王電鉄 乗降人員 770,072人
小田急電鉄 乗降人員 499,919人
東京メトロ 乗降人員 233,555人
都営地下鉄 乗降人員 新宿線 289,786人 大江戸線 139,794人

データ出典:JR東日本東京メトロ小田急電鉄京王電鉄都営地下鉄

これらを合算すると確かに350万人近い数字が出ますので、数字の根拠は分かりました。

ここで一つの疑問が湧いてきます。たとえば小田急や京王の沿線から東京都心に向かう場合、一つの路線だけで移動が完結することはそうそうありません。新宿駅でJRや地下鉄に乗り換える人も多いはずです。彼らはどのように計算されているのでしょうか。

乗降人員は鉄道会社ごとに算出されるので、同じ新宿駅でも「小田急電鉄新宿駅」と「JR新宿駅」と「東京メトロ新宿駅」は別の扱いになります。ですから、小田急線で町田駅から新宿駅まで行き、JRに乗り換えて市ケ谷駅まで移動した人がいた場合、小田急線新宿駅の「降車」とJR新宿駅の「乗車」で2回カウントされてしまうのです。

では中央線から山手線に乗り換えるとどうなるでしょうか。同じJR線なので改札を出ないだけで小田急からの乗り換えとやってることは何も変わらないのですが、駅を降りていないので乗降客数にはカウントされないのです。

 

私鉄のターミナル駅は乗降客数の計算で有利!?

ということは複数の会社が乗入れる駅はそれぞれ重複して計上されるため、見た目の数字が膨らんでいくことになります。まとめサイトに掲載されていた「利用者数ランキング」を改めて見てみると、その条件に当てはまる駅ばかりだということに気づくでしょう。

1位 新宿(年間12.8億人)JR東日本・京王・小田急・メトロ・都営
2位 渋谷(年間10.9億人)JR東日本・東急・京王・メトロ
3位 池袋(年間9.1億人)JR東日本・東武・西武・メトロ
4位 大阪/梅田(年間8.3億人)JR西日本・阪急・阪神・地下鉄
5位 横浜(年間7.7億人)JR東日本・東急・京急・相鉄・地下鉄
6位 北千住(年間5.3億人)JR東日本・東武・TX・メトロ
7位 名古屋(年間4.0億人)JR東海・近鉄・名鉄・あおなみ線・地下鉄
8位 東京(年間3.9億人)JR東日本・JR東海・メトロ

ではもっと実態に近い数字を算出する方法はないのでしょうか。実はこれがなかなか難しいのです。鉄道は改札にきっぷを通せばそこで完結です。前後にどの路線に乗ったのかは分かりません。IC乗車券の記録を細かく追跡すれば把握できるかもしれませんが、プライバシーの問題もあり、そのような利用は行われていません。

唯一の手掛かりとなるのが定期券です。PASMO登場以前はJRのSuica定期と私鉄の磁気定期を別々に持つ人も少なくありませんでしたが、PASMO導入以降は(ICカードは2枚同時に使えないため)連絡定期券が一般化しています。定期券はルートを指定して購入するため会社だけでなく路線・乗換駅も把握できるのです。

鉄道会社が一般に公開しているデータにはこのような細かい情報は含まれていませんが、国土交通省が発行する「都市交通年報」には各路線各駅ごとに乗り換え利用者の総数が記載されています。首都圏の通勤路線はいずれも定期券利用率60%程度ですので、利用者の半分以上の動向はつかめるというわけです。

 

定義によって「駅の利用者数」は変わる

手元には約10年前の「平成21年度版都市交通年報」しかないのですが、大まかな傾向は変わっていないでしょうから、とりあえずこれを使って分析してみることにしましょう。

JR東日本 定期 83.4万人 定期外 74.7万人
京王電鉄 定期 46.3万人 定期外 27.7万人
小田急電鉄 定期 29.9万人 定期外 20.0万人
東京メトロ 定期 16.6万人 定期外 12.1万人
都営地下鉄 定期 20.8万人 定期外 14.6万人
合計 定期 197万人 定期外 149.1万人 計 346.1万人(定期券率56.9%)

出典:平成21年都市交通年報(新宿駅一日平均乗降客数)

定期券利用者について路線ごとに分解して整理し、重複分を排除すると次のような関係になります。

この数字を合計した約132万人が正味の値で、これは当初の197万人に対して67%の数字となります。仮に定期外利用者も同様の割合で他社線から流入しているとすると346万人の66%で231万人強となりますから、新宿駅の「利用者340万人」以上という数字は110万人ほど「水増し」されていた可能性があるわけです。

ただし中央線・山手線・埼京線・湘南新宿ラインなどJR線同士の乗り換え客はこの数字に含まれていません。私たちがイメージする「駅利用者」はこちらも含めた数字の方が実感に近いでしょう。同じく都市交通年報のデータによると、新宿駅で山手線(埼京線・湘南新宿ライン含む)と中央線(各駅停車と快速含む)を乗り換える人は、定期券利用者で57.2万人、定期外利用者で65万人もいるのです。これを加えると350万人以上と今度はむしろ増えてしまいました。

※ただし統計上、山手線と埼京線・湘南新宿ラインの乗換客、中央線の快速と各駅停車の乗換客は区別できないので、実際に新宿駅で乗り換えする利用者はもっと多いと考えられます。

あるいは新宿駅で乗降しないけれども、電車に乗ったまま通過している人もたくさんいるわけです。駅構内を利用しているとは言いづらいですが、広い意味では駅設備を利用している人たちです。これも同様に算出すると、山手線で85万人、中央線で54万人、地下鉄丸ノ内線が16万人、合計155万人となります。ギネス記録の説明文にあった「passengers per day pass through the station」の場合、こちらも加えた方がニュアンスが近いような気もします。となると約500万人です。

駅を利用または通過する人の延べ人数は以上のようになりますが、新宿駅の利用者がユニーク数でどれだけいるのか考えると数字はまた変わってきます。鉄道利用者のほとんどは行きと帰りで同じルートを使って移動しますので、実際に利用している人は乗降人員の半分、つまり乗降客数ベースなら116万人、JR相互の乗換客も含めると175万人となります。Wikipediaには「新宿駅の乗降客数は横浜市の人口に匹敵する」とありましたが、ユニーク数と延べ人数を比較するのはちょっと違和感がありますね。

 

比べるのは難しい

全ての駅を計算したわけではないですが、おそらく日本国内には新宿駅を上回る利用者を持つ駅はないと思われます。ということは世界で一番利用者が多い駅というのも間違いないでしょう。

ただ定義次第で利用者数や2位以下の順位は随分変動します。例えば東京駅もJR相互の乗り換えを含めれば概算で200万人くらいが利用しているので、まとめサイトのランキングにあった「1位 新宿(年間12.8億人)」と「8位 東京(年間3.9億人)」ほどの差はないはずです。

ましてや世界の駅と比較するのは困難です。世界の大都市の交通機関はほとんどが一元されており、同一駅で事業者ごとに重複して計上されることがありません。乗車券の仕組みも異なりますし、改札がない国もあります。乗客のカウントの精度も天地の差があるでしょう。

これまでは日本の鉄道利用者数が圧倒的に多かったため、国内チャンピオンと世界チャンピオンがイコールでしたが、近年では中国やインドで鉄道網が驚異的な発展を遂げていますので、いつまでそれを前提としていられるかは分かりません。そうなったときに、単純に乗降人員の合計を比べても意味がないということがお分かりいただけたと思います。

数字(統計)は公平なものだと何となく思われていますが、国・都市・駅ごとの固有の条件から逃れられないのです。鉄道を数値化、ランキング化する記事を最近多く見かけますが、そんなところも注意して数字のマジックに騙されないようにしたいものです。